4. 化学薬剤では落とせない「残臭」と「残留菌」…天然成分が突破口に

介護施設や食品加工場、水産工場、ペット施設など、多くの業種で長年の課題とされてきたのが、「しつこい残臭」と「目に見えない残留菌」の存在です。日々清掃を徹底し、消毒薬や香料入りの製品を使用しても、なぜか消えないにおいや再発するカビ・菌。実はこの問題、表面的な対処だけでは根本的に解決できない構造的な問題があるのです。

例えば、アンモニアやアミン類などの成分を含む悪臭は、表面だけでなく空気中・繊維の奥・微細な隙間にまで入り込み、時間とともに蓄積していきます。これらは一時的に香りで覆い隠す“マスキング消臭”では対応できず、「時間が経つとまたにおってくる」「清掃しても不快感が残る」といった“残臭”の原因になります。

また、バイオフィルムに代表されるような「残留菌」は、細菌が自ら分泌する粘性物質で周囲を守り、薬剤の侵入や洗浄から身を守っているため、一般的なアルコールや塩素系薬剤では完全に除去できません。むしろ、頻繁な使用により素材を傷めたり、従業員の肌・呼吸器への負担となる場合もあります。

こうした課題に対し、新たな突破口となりつつあるのが、L-アスコルビン酸(ビタミンC)やフミン酸などの「天然由来成分」です。

L-アスコルビン酸は、酸化還元反応によってにおい物質の化学構造を変化させ、アンモニア・硫化水素・アルデヒド類といった強い悪臭を分子レベルで分解します。2021年に東京農業大学応用生物科学部の研究チームが発表した学会報告(日本農芸化学会大会講演要旨)では、L-アスコルビン酸を使ったスプレー処理により、トリメチルアミン臭(魚介類に多い)の濃度を90%以上低減できたという結果が報告されています。

一方、フミン酸は、微生物の細胞膜に作用して増殖を抑えたり、バイオフィルムの構造を破壊する性質があることが知られています。2022年に発表された農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)の植物防疫研究レポートでは、湿潤な環境でフミン酸を繰り返し処理することで、野菜表面や作業環境におけるカビの発生が大幅に抑制されたと報告されました。

さらに、2020年の『Applied Microbiology and Biotechnology』(Springer社)掲載の国際論文では、L-アスコルビン酸が緑膿菌のバイオフィルム形成を阻害する効果が確認されています。これは、細菌が群体形成に使う「クオラムセンシング機構」をL-アスコルビン酸が阻害するためであり、天然成分が微生物の行動制御にまで影響することを示しています。

実用面でも、天然成分を導入した水産加工施設では、床や排水溝に長年染みついていた魚介臭が軽減し、作業中の不快感が大きく低減。従業員の体調不良や離職率にも好影響を与えたという事例が業界誌でも取り上げられています(『食品と開発』2023年10月号)。また、介護施設でも洗濯物やおむつ周辺の残臭が改善された結果、見学者の印象が向上し、入所希望者の増加につながったという声もあります。

化学薬剤を否定するわけではありませんが、繰り返し使用しても落ちない残臭や残留菌には、それに適した「分解・抑制アプローチ」が必要です。天然成分による構造レベルの分解は、素材を傷めず、空間と人への優しさを両立しながら、従来品では届かなかった課題に働きかける手段として注目されています。

今後、これらの成分の応用研究が進めば、「自然素材だから仕方ない」ではなく、「自然素材だからこそ届く・効く」という新しい衛生管理の常識が、医療・介護・食品産業の現場に根付いていくことでしょう。

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