6. 介護施設で起こる“におい問題”―天然成分がもたらす健康と印象の改善
介護施設では、日々のケア業務の中で発生する排泄臭、体臭、食事の残り香、薬品臭などが混ざり合い、複雑で強い「におい問題」が常に付きまといます。この問題は、ただの不快感にとどまらず、施設で暮らす高齢者のQOL(生活の質)やスタッフの作業効率、さらに外部からの評価にも大きな影響を与える要素となっています。
たとえば、ある調査(2022年・高齢者福祉施設運営協議会)では、入居者の家族や見学者が介護施設を選ぶ際に最も重視する要素の一つとして「においの少なさ」が挙げられており、印象が良ければ契約につながる率が高いという結果も出ています。逆に、においが強い施設では、入居希望者の不安を招き、入所を見送られる可能性も高まります。
さらに、においはスタッフの心身にも影響します。長時間にわたる不快臭の中での業務は、知らず知らずのうちにストレスや疲労感を蓄積させます。また、においを隠す目的で使用される化学系の芳香剤や除菌スプレーに含まれる成分が、アレルギーや皮膚炎、喘息などの症状を引き起こすケースも報告されており、これは職員本人だけでなく、家族への二次的影響としても懸念されています。
こうした課題を背景に、近年注目されているのが「天然由来成分による消臭・抗菌対策」です。中でも、L-アスコルビン酸(ビタミンC)とフミン酸は、化学薬剤に匹敵する消臭・除菌効果を持ちながらも、肌や呼吸器に優しいという特徴から、介護の現場に最適とされています。
たとえば、2021年に九州大学生活環境衛生研究チームが日本衛生学会で発表した研究では、L-アスコルビン酸を噴霧した施設内空間で、アンモニア、メチルメルカプタン、トリメチルアミンなどの臭気物質の濃度が90%以上減少したことが報告されています。これは、L-アスコルビン酸が持つ酸化還元反応により、臭気物質を構造的に分解・無臭化する作用によるものです。
また、2022年に発表された東京農業大学の研究によれば、フミン酸を施設内の床や壁面に定期的に噴霧することで、黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌といった一般的な日和見感染菌の増殖が抑制されると同時に、においの発生源となる分解過程そのものが遅延し、悪臭発生の予防につながったとされています。さらに、フミン酸は表面の微細な凹凸にも作用するため、カビやバイオフィルム形成の抑止にも効果を発揮します。
実際の現場でも、これらの天然成分を使った製品が導入され始めており、消臭・抗菌効果はもちろんのこと、入所者やスタッフの満足度向上にも寄与しているとの報告があります。さらに、こうした「自然由来の安全な環境づくり」が口コミやSNSなどを通じて共有され、施設のブランディングや差別化戦略にもつながっている例も増えてきています。
介護施設におけるにおい問題は、単なる衛生管理の一環ではなく、入所者の健康と尊厳を守り、職員の働きやすさを向上させ、地域社会における評価を高める重要なファクターです。天然成分による対策は、「ナチュラル=効果が弱い」という先入観を覆す、確かなエビデンスと実績に裏付けられた新しいスタンダードとして、今後ますます注目されることでしょう。